007「私を愛したスパイ」~小説版


概要

イアンフレミング原作の「私を愛したスパイ」は1962年にシリーズ第10作目として執筆されている

この作品は名前以外は映画版と内容は異なっており

アメリカを旅するカナダ人女性の視点から

たまたま命を救ってくれたジェームズ・ボンドと言う凄腕のスパイに心奪われていく内容になっている

007小説の中でも最も異色であり、イアンフレミングの新しい実験が窺える一作になっている

 

登場人物

ヴィヴィエンヌ(ヴィヴ)・ミッシェル

両親を早くして失い叔母に育てられたこのカナダ人女性が本作の主人公である

多感な時期をイギリスで過ごしたが、自分がカナダ人であることが原因で周囲になじめなかった

そして二人の男性と交際するが、いずれも裏切られるかのように終了を迎え

男性不信に陥りイギリスという国にまで敵意を持つようになってしまった

そしてふと思いついたアメリカ横断のアイディアを決行し、たどり着いたモーテルで事件は起こったのである

 

デリック・マラビー

ヴィヴが17歳の時開いたパーティーで知り合い付き合うことになった男性である

ウィンザーに住むボンボンでクリケットの選手に選ばれている

だがヴィヴがこの男と性的関係を結んだ後日、一方的な別れを綴った手紙が来るのであった

 

クルト・ライナー

二度目のヴィヴの交際相手であり、西ドイツ新聞協会に在籍するドイツ人である

クラリオンという地方紙に勤めていたヴィヴはクルトの仕事に興味を持ち

出会った直後、その職場からクルトの元へと移籍したのである

この男には交際中のドイツ人がおり、ヴィヴともただの上司と部下の関係であったが

この交際中の女性に逃げられ、落ち込んでいるところをヴィヴに慰めてもらったことから

付き合っているのかが微妙な肉体関係が始まっていくのである

この男との破局の後ヴィヴはすべてをリセットし、ヴェスパによるアメリカ横断を決行するのだ

 

ファンシー夫妻

アメリカ横断中のヴィヴがたまたま訪れたドリーミー・パインズというモーテルの従業員である

ヴィヴにここでの仕事を薦め、これも人生経験と考えた彼女はこの仕事を引き受けたのだ

この夫婦がある日外出し、彼女は一人きりでこのモーテルを任されると下の二人組が現れたのである

 

スラグシーとホラー

ヴィヴが働くモーテルに嵐の夜に突如現れた人相の悪い二人組である

この二人の登場により彼女の日常は非日常へと急変するのであった

 

ストーリー(ネタバレ有り)

雷雨が轟くなかヴィヴィエンヌ・ミッシェルは今までの人生を振り返った

彼女はカナダのケベックの外れで産まれ、両親は8歳の時に飛行機事故で亡くなってしまい

それからは叔母であるフローランス・トゥサンによって育てられ、ヴィヴの愛称で呼ばれた

だがその地の宗教的閉鎖性で彼女はつまはじきになってしまい

イギリスに向かうことになり、花嫁学校に通うようになったのである

そこでスコットランド人のスーザン・ダフと仲良くなり、小さなアパートを借り二人で生活するようになった

 

このスーザンとパーティーを開き、ヴィヴはパブリックスクールに通うデリック・マラビーと仲良くなった

彼女はこのデリックとデートを重ねるようになり、ある映画館の特等席に行くことになった

デリックがこの小部屋を選んだのは周囲を気にせず二人でいちゃつくことが出来たからであった

それでも一線は超えないようにしてきたヴィヴであったが

ある日デリックがもう耐えられないとなり、彼女もさすがに観念したのであった

そんな中映画館の主人が顔を出し、もの凄い勢いで裸になった二人に怒鳴りちらし

警察に通報されることは撒逃れたもののヴィヴはこの事態に相当落ち込んでしまったのであった

だが衝動の収まらないデリックは彼女の気持ちも考えず、違う場所でその一線を踏み越えてしまったのだ

その後彼からなんと別れの手紙が届き、その内容は両親が反対していたと綴ってあった

 

猛烈に傷ついた彼女はこれがイギリスにおけるカナダ人の宿命だと考え、世の中を恨むようになった

そして「チェルシー・クラリオン」という地方新聞社に就職して完全に仕事のみに没頭する生活が続いた

利用されるのではなくする側へと

イギリスのえせ上流階級を己の力で食い物にしてやろうと考えていたのだ

 

仕事のみに没頭したおかげでヴィヴは編集長助手という地位まで出世した

そんな時に出会ったのが西ドイツ新聞協会のクルト・ライナーであった

彼の仕事に興味を持ったヴィヴはクラリオン社を辞め、このクルト・ライナーの元で働くことにした

このクルト・ライナーというドイツ人には同じくドイツ人の婚約相手がいたが

ある日、相手に好きな人が別に出来てしまったという理由で終わってしまったのであった

彼はヴィヴに相談し泣きついて、彼女もそんな彼に気を許してしまったのだ

 

それから二人は暗黙の肉体関係を持つようになり、ヴィヴも別に悪くは思っていなかった

だが、彼女が妊娠という事実に気付き相談すると急に彼の態度が変わってしまったのである

クルトはドイツ人らしい考えで混血を認めなかったのである

よってカナダ人であるヴィヴは結婚相手としてはありえなかったのだ

クルトは子供を堕ろす費用と医者を紹介し、今までの仕事の功績分も支払った

この関係も最悪の形で終了し、ヴィヴはまたしても心に深い穴を開けられたのであった

 

世の中の残忍さを経験したヴィヴはベスパでアメリカ横断をするプランを考えた

仕事でまとまった金はあったので、これからのことは世界中を旅してから考えようと

そうしてたどり着いたのが今いるドリーミー・パインズのモーテルであった

ここはファンシー夫妻が雇われで経営しており、トロイに住むサンギネッティというのが所有者であった

彼女が旅の計画をこのファンシーのかみさんに話すと

ここでしばらく働くことを提案され、これも人生勉強だと思いやってみることにした

 

しばらく働きこの辺りのシーズンオフとなり、このモーテルも閉店の準備を迎えた

ファンシー夫妻は先にここを出るらしく、丸一日このモーテルをヴィヴに任せると言った

翌日にはサンギネッティ氏が現れるので彼女はその鍵を渡せばいいのである

一人きりでモーテルに住めることに羽を伸ばそうとしたが

その夜は雷を伴う大嵐であり、近くに落ちる落雷に怯えながらもヴィヴは今までの人生を振り返っていたのだ

 

すると閉店したはずのモーテルに二人の男が現れたのである

あまりの恐怖と孤独感に救いを求めた彼女が空室のスイッチを入れていたのであった

空室のネオンは関係なく、彼らはサンギネッティ氏に雇われた保険会社の人間であると言った

しぶしぶ二人を中に入れると、人相が悪いどころか銃まで持っているようである

スラグシーとホラーと名乗ったこの二人組はギャングのようであり

ヴィヴもアイスピッグをふところに忍ばせ、この場を逃げることを考えた

 

機を窺い彼女は逃げ出したが後ろからは銃声が鳴り響いていた

彼女は木陰に隠れていたが結局スラグシーに見つかり、モーテルの一室に閉じ込められてしまった

そしてホラーによって虐待されるが、彼女は忍ばせていたアイスピッグを思い出した

これをギャングの頭に振りかざしたが、かすめただけで逆に取り押さえられ

さらにひどい虐待が始まるのであった

だがしばらくするとなんと戸口のブザーが鳴り響くのであった

 

スラグシーとホラーはヴィヴに出るように伝えた

立っていた男は左頬に傷のある冷酷そうなすごみを見せていた

二人に言われたように営業してないとその男に言ったが、ヴィヴは手招きをして助けを求めたのである

このイギリス人は車がパンクして困っていると言った

中にいるギャング二人は帰るように言ったが

その男は空室有りの看板を逆手に取り、ここに泊まることが決まったのであった

 

ギャングが聞くと、その男はジェームズ・ボンドというイギリスの警官であると言った

二人の監視はあったがヴィヴはこの状況をボンドに説明することが出来た

二人組は保険会社を名乗っているがギャングであり、彼女の命を狙っていると言うと

ジェームズ・ボンドは助けることを約束し、口外しないことを条件に自身について語りだした

 

ソ連から亡命したボリスという原子力潜水艦建造チームの幹部がトロントに落ち着いたが

彼の暗殺命令が出され、スペクターという機関が居所を突き止めこれに名乗り出た

そしてホルスト・ウールマンという男が暗殺者であることが判明すると

ボリスの住居にこのジェームズ・ボンドが替え玉として送り込まれたのであった

暗殺に現れたこのウールマンを見事返り討ちにし、ワシントンに報告に向かっていると

この嵐に見舞われこのモーテルに立ち寄ったという話であった

 

ヴィヴの部屋はスラグシーとホラーの部屋に挟まれており、ボンドは離れの部屋になったが

ボンドは彼女にスミス&ウェッソンの銃を渡し、その部屋に対策を施した

夜も更け彼女はベッドに入り、ボンドは起きて警戒することになった

眠りについた彼女はなにかの気配で目を覚ました

衣装戸棚から光が漏れていて、向かうとスラグシーが一撃お見舞いし彼女は意識を失った

 

彼女が意識を戻すとボンドに外に引きずられ、モーテルは真っ赤に燃え盛っていた

そして、これは保険金詐欺であり、ヴィヴをその犯人に仕立て上げる策略だとボンドは言った

彼女は石油ランプを使うよう言われており、それが何かの拍子に倒れて出火したというシナリオである

ボンドはベッドに身代わりを作ることにより逃げきり、彼女を救出したのであった

また彼女の衣装戸棚の裏の壁もギリギリまで崩してあり、いつでも侵入できるようになっていたのだ

 

燃え盛る建物側でテレビを運ぶギャング二人に攻撃するが、上手く一号室の方に逃げて行った

そこにはマシンガンが隠されていたが、ボンドはそこに立ち向かいマシンガンを撃ち落とした

車に向かい逃げようとするスラグシーとホラーであったが

ボンドの撃った弾が運転手に当たり車は湖の底に沈んでいったのであった

こうして二人は燃え残った一室で朝を待つことになったのである

ヴィヴは完全にこの男に恋していたが、所詮いなくなってしまうことも知っていた

だが今までのデリックやクルトとは違う本物の男の愛の営みに溺れていた

 

半分眠りかけたヴィヴの目に何者かの動きがあり

その時目覚めたボンドが銃をとっさに発射し、弾丸が当たった先はスラグシーであった

池に落ちた車からどうやら上手く脱出し、機を窺っていたのである

これで完全に安心した二人はスプーンを重ねたみたいに眠るのであった

 

翌日、ヴィヴが目覚めるとボンドはもうそこにはおらず、手紙があった

そこには警察に事情を知らせるためボンドが朝早く出発し

ヴィヴには保険会社からの謝礼とギャングにかかっていた懸賞金が入る可能性があると書かれていた

そして、今回の一件は通りすがりの事故のようなものであり

引きずらずに今までのように素晴らしいお嬢さんとして生きていって欲しいと最後にあった

警察に事情を話したヴィヴはベスパに乗り込み旅を再開した

警部は今回のジェームズ・ボンドは堅気の男ではないので忘れるように言ったが

ヴィヴの心にはしっかりと刻まれていたのであった

 

 

 

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