007「ムーンレイカー」~小説版


概要

イアンフレミング原作の007「ムーンレイカー」は1955年第三作目として登場している

映画版では地球を飛び出し宇宙まで飛び立つロケット「ムーンレイカー」となっているが

原作は核兵器ミサイルの話になっている

主要な人物以外の登場人物も映画版とはかなり異なっているのである

また原作ではよくあるひねりの有るなんとも言えないエンディングも特徴的である

 

登場人物

1.ヒューゴ・ドラッグス

戦時中記憶が無くなるほどの重症を負い、そこからコロンビュウム鉱石で財を作り上げた伯爵である

英国のために「ムーンレイカー」という核ミサイルを発明しており

国民の間でもその人気はかなりのものだという

そんな知名度もあり金も有り余っているドラッグスがロンドンのブレイズ・クラブのカードゲームでいかさまを

働いているという情報を入手したMはなにか怪しいものを感じ、007にその調査を依頼するのである

 

2.ウィリー・クレッブス

ドラッグスの副官であるのだが挙動不審な点が多い

保安係官として送り込まれたボンドの部屋に勝手に侵入し所持品等を検査するが

親分のドラッグスもこの奇行には手を焼いているという

 

3.ガーラ・ブランド

ヒューゴ・ドラッグスの秘書であるが、実は警視庁特別部が送り込んだ婦人警官なのである

ドラッグスの基地はこのガーラと↓のトーロン少佐以外の約50人はドイツ人であり

傍から見たら二人は親密に見えたようである

 

4.トーロン少佐

軍需省の保安係官としてムーンレイカーの安全を管理するためドラッグスの基地に派遣された

だがガーラ・ブランドを巡る恋の争いでエゴン・バーチという男に撃たれ

そのバーチもその銃で自殺してしまったという

丁度基地に何かおかしなことがあるという少佐の連絡があったその晩の事件であり

これは非常に怪しい匂いがする

そしてこの後釜として選ばれたのが007ことジェームズ・ボンドなのである

 

5.ローリア・ポンソンビー

ジェームズ・ボンドの秘書である

ボンドは愛称でリルと呼ぶが本人はその呼び名を嫌っているようである

 

 

ストーリー(ネタバレ有り)

「国民的英雄ヒューゴ・ドラッグスがカードでいかさまをしている」

というのがMの言い分であった

コロンビュウム鉱石で財を成し、英国のために防衛用の核ミサイル「ムーンレイカー」を開発し

伯爵の地位を得た彼がなぜそんなリスクを冒すのかがMには理解できず

また怪しい匂いがしてきたのである

そんな話を聞くボンドは007としてではなく、Mの個人的な頼み事として

その現場であるロンドンのカードゲームの老舗であるブレイズ・クラブに向かったのである

Mという堅物は公私の区別ははっきりさせておきたいタイプなのだ

 

Mも今回相談を持ち掛けたクラブの会長ベイジルトンもドラッグスの不正を公にするのを嫌い

警告レベルにとどめるようボンドに伝えていた

なぜなら今や彼は強力な権力を持っていたが

それより「ムーンレイカー」計画がそれにより破たんすることを最も恐れていたのだ

この計画が成功すればソ連等の東欧諸国に軍事的に有利になるからである

 

まずブレイズ・クラブに到着したMとボンドは問題のドラッグスのブリッジの手を観察することにした

ボンドはすぐにそのいかさまの手口を掴むことができた

それはシャイナーといういたってシンプルな手口であり

自分が親の時、置いてある銀のシガレットケースの反射を利用してすべてのカードを見ていたのだ

後は手の位置などでそれを分かりずらくしたり、関係ない話題で気を逸らしていたのである

記憶力は相当必要とされるが、これでドラッグスが親の時は常勝となるわけである

 

そんなMとボンドが気になったヒューゴ・ドラッグス卿は二人にブリッジの勝負を挑んできた

もともと高額な賭けで始まった勝負であったが

最後のボンドが親のゲームでその掛け率は一手百ポンドという超高額な賭けとなったのである

エース、キング、クイーン等強いカードを持つドラッグスは自信満々であったが

ボンドはブリッジの持つ切り札というカードを駆使して、これを打ち破ったのである

結果15000ポンドの負債を背負いドラッグスは怒りをあらわに帰ったのである

ボンドはポケットからハンカチを取り出すのと同時に

カードを用意されたいかさま用のとすり替えていたのである

まさに目には目を歯には歯をいかさまにはいかさまでということである

 

翌日、Mに呼び出されたボンドは昨夜ヒューゴ・ドラッグスの基地にて殺人事件があったと聞く

殺されたのはトーロン少佐という軍需省から派遣された保安係官であり

動機はガーラ・ブランドというドラッグスの秘書を巡る恋路の争いであったという

そしてガーラ・ブランドは実は警視庁特別部からドラッグスの元に送り込まれた監視員だったという

 

少佐を撃ったエゴン・バーチという男も最期は拳銃自殺してしまったというが

今まで何事も無かったトーロン少佐から何か気にかかることがある

という連絡があったその日の事件であることも引っかかりを感じるのであった

昨夜、ドラッグスとカードバトルしているその日であるというのもなんとも奇妙な話ではあるが

なんとそのトーロン少佐の後釜としてジェームズ・ボンドが選ばれたのである

そして近々予定されているムーンレイカー発射試験が無事に行われるように言われたのである

 

ドラッグスのムーンレイカー基地に到着したボンドはロケット科学者のウォルター博士

副官であるウィリー・クレッブス、秘書であるガーラ・ブランドを紹介された

ガーラは左手の薬指に指輪をはめていたが、多分言い寄るドラッグスを警戒してのことであろう

この基地で働く人間はボンドとガーラ以外は皆ドイツ人であったが

その50人近くが頭を短く刈り込み、そして全員髭を生やしているという光景がボンドには異様に見えた

 

ボンドは亡くなったトーロン少佐の部屋で寝起きすることになり、そこで二つの指紋が付いた海図を発見する

何者かがこの部屋に侵入しこの海図から少佐が何か感づいたことを察知したのかもしれない

そしてその指紋を調べるとクレッブスのものだったのである

またガーラは秘書として毎朝気象からジャイロの調整の計算をしていたのだが

その計算もウォルター博士によって書き直されドラッグスの手帳に記入されているらしいのだ

そんな疑惑を持ちつつ部屋に戻るとクレッブスがボンドの所持品を物色していたのだ

そんなクレッブスを強烈に蹴り上げ、真相を聞こうとするが口を割らず

ドラッグスにも報告するが、彼のそういう探り癖にはほとほと手を焼いていると関与は否定したのだ

 

そしてドラッグスはボンドとガーラにムーンレイカーの排気口のある海岸沿いを見ることを薦めるが

その白亜の断崖が崖崩れを起こし危うく二人は生き埋めになってしまうところであった

崖崩れ直前に爆発音を聞いていたボンドはこれは事故ではなく

確実に二人が生きていたら邪魔になるという殺意を感じるのであった

 

翌日、ヒューゴ・ドラッグス、クレッブス、ガーラはロンドンにムーンレイカー発射試験の報告に向かっていた

車内でドラッグスの手帳を上手く引き抜いたガーラはトイレに行くふりをし

手帳を調べるとムーンレイカーの着地地点は予定されていた場所から90度ずれており

それはなんとロンドン市内に向かっていたのである

そして弾頭も本物の核に気付かないうちに入れ替えてしまう予定であろう

だが車内に戻り手帳を元に戻そうとした時、クレッブスに見つかり監禁されてしまうのであった

 

食事のためにブレイズ・クラブに立ち寄るドラッグスのベンツをボンドは愛車のベントレーで追いかけた

ロンドンで待ち合わせに来ることが出来なかったガーラは間違いなくそのベンツに拉致されているはずだ

だが上り坂で巨大な巻き取り紙を積んだトラックのロープをクレッブスが切って

ボンドのベントレーは大破し、本人も大けがするのであった

そして後部座席のガーラの上に押し込んだのである

 

基地に戻ったドラッグスは拘束したボンドとガーラに素性を明かした

ヒューゴ・ドラッグスはフーゴ・フォン・デル・ドラッフェというドイツの伯爵であり

母方の関係で幼少期イギリスで教育を受けたが全く馴染めず英国嫌いになったという

それから大戦中、ドイツ軍で奮闘するも重傷を負い、間違ってイギリス兵として看護され

記憶を無くしたように見せかけ、丁度名前の似ているヒューゴ・ドラッグスという名前で生まれ変わったというのだ

それからはイギリスに対する復讐で頭がいっぱいになり

ブレイズ・クラブでのカードのいかさまもその復讐の一環であったという

そしてこの度ムーンレイカー発射試験でソ連から仕入れた本物の核弾頭を使い

ロンドンの中心に復讐の一撃をお見舞いするというなんとも誇大妄想な考えを披露したのである

トーロン少佐はその核弾頭到着の現場を目撃したために

恋愛のもつれを演じたエゴン・バーチに殺されてしまったのである

 

こうしてロンドン中心部に向けた核ミサイル発射は秒読み段階になったわけだが

世間的には英国を守るムーンレイカーというミサイルの発射実験が沖合に向かって放たれると思われていた

基地に捕らわれていたジェームズ・ボンドとガーラ・ブランドはバーナーで拘束を焼きちぎり、換気孔に姿を隠し

監視員がいなくなってからムーンレイカーの行先を決めるジャイロの設定を変更したのである

ガーラは日々のジャイロの仕事からそこには精通していたのだ

ムーンレイカー発射となり、ヒューゴ・ドラッグス卿は潜水艦で避難することになるが

なんとソ連の旗を掲げて浮上した海面にそのムーンレイカーは落ちてきたのである

 

こうしてヒューゴ・ドラッグス卿の誇大妄想によるロンドン市内壊滅を免れたが

Mはその事後処理に追われていた

 

また今回の英雄であるボンドとガーラには経費はお構いなしの一か月くらいの旅行を首相は薦めてきた

ともにドラマッチックな境遇を乗り越えた二人なだけにボンドの妄想も膨らむばかりである

そうしてガーラと会い、今後のプランを語ろうとすると

「私あの人と結婚します」

とボンドの後ろには若い男がいたのであった

ボンドはガーラの指輪をなぜドラッグスから逃げる口実だと思い込み

彼女もボンドと同じ欲望、同じ計画を立てているだろうと思い込んでいたことに肩を落とした

そして現実の秘密情報部員に徹して、影だけしか持たない男としてまた自身の道を歩き出したのである

 

 

 

 

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